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「はいはい、今行きますよっと」

　玄関のチャイムの音に、朝倉純一はいそいそと自分の部
屋から出て階段を降りる。
#NEXT

　今日は恋人の鷺澤美咲が遊びに来ることになっているの
だ。

　いつもなら『純一にお任せ』になることが多いふたりの
デート。

　だが、今日に限ってはどうしても純一の家がいいという
ことだった。
#NEXT

「今日って、なんかあったかな？」

　純一は廊下の壁掛けカレンダーを確認する。
#NEXT

　２月２２日――美咲にとっては特別な日なのだろうか？

　いや、むしろ日付など関係なく、今日は部屋の中でイチャ
イチャしたいだけなのかもしれない。

「ま、俺はそれでもウェルカムだけどな」
#NEXT

　そんな、少し邪な妄想で頭を充満させながら、純一は玄
関を開ける。

「いらっしゃい――」

　さあ入って、と続くはずだった純一のセリフは、目の前
の光景に思わず引っ込んでしまった。
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　なんと、目の前には見目麗しい猫耳メイドさんがピシッ
と背筋を伸ばして立っていた。
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「頼子さん！？」

　懐かしい姿に、思わずその名前が純一の口をついて出て
しまう。
#NEXT

「お久しぶりです」

　オマケにそんな純一に向かって猫耳メイドさんはぺこり
とお辞儀をするのだ。
#NEXT

「え？　……え？」

　状況が掴めない純一は、混乱したまま固まってしまう。
#NEXT

「ふふ……ふふふっ、冗談ですよ朝倉さん」

　ポカンとしている純一に、笑いを堪えられていない猫耳
メイドさんはあっさりとカミングアウトする。

「おまえなぁ……」
#NEXT

「ごめんなさい。まさかこんなに上手くいくなんて思いま
　せんでしたから」

　くすくすと悪戯っぽく笑うのは、やはり……というか当
然ながら美咲だった。
#NEXT

「それはそうと、どうですか？　朝倉さん。似合ってます
　か？」

　美咲は右足を引いて膝を少し曲げると、スカートの裾を
両手で軽く摘んでお辞儀をしてみせる。

「ああ、バッチリだ。とっても似合ってる」

　お嬢様然とした美咲が着ると、よく知っているメイド服
もドレスを纏っているように見えるのだから不思議だ。
#NEXT

　美咲のメイド服姿を目に焼き付けた純一の視線は、気に
なっていた彼女の頭部――猫耳へと注がれる。

「なあ、それってさ……」

「ああ、コレですか？」

　美咲は耳の後ろに手をやると、ひょいと持ち上げてみせ
る。
#NEXT

　それは、メイドカチューシャに猫耳を配した、なかなか
にアヴァンギャルドな逸品だった。

「ちょっと、触ってみてもいいか？」

「構いませんけど……、そんなに大したものではないです
　よ？」
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　頷いた美咲は、カチューシャではなく、なぜか少し屈ん
でカチューシャごと自分の頭を差し出す。

「ま、いいか。じゃ、失礼してっと」

　純一は猫の頭を撫でるようにそっと猫耳に触れる。
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「おお、これは……」

　フカフカしていて、なんだかホンモノみたいだ。

「あ、朝倉さん……くすぐったいです」
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　そんな美咲の上目遣いの抗議もなんのその、更にモフる。

「ちょっといいかもしれない……」

「あの、朝倉さん……？」

「あ、いや、こっちの話。ありがとな」

　純一は美咲の頭の上から手を離す。
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「それにしても、なんだってこんな格好してるんだ？」

　出落ちに等しいドッキリだけが目的とは思えない。

「ふふっ、それはですね」

　美咲は手首を折り曲げた両手を胸の前に持ってくる。
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「今日は“猫の日”だから、ですよ」

　にゃんにゃん、と両手を猫の前足よろしく上下させるそ
のポーズはなかなかの破壊力だ。
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「でも……ちょっと妬けちゃいますね」

「え？　……なにが？」

「もうっ！　朝倉さんったら」

　ぷいっと顔背けて拗ねてみせる美咲。
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　けれど、片目だけは純一の言葉を待つようにじーっとこ
ちらを見ている。

「“私の名前”……呼んでくれないんですか？」

　その仕草も、服のせいか、それとも美咲だからか、純一
には愛らしく思える。
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　もう少しイジワルしてやろうか、とも思ったがこれ以上
は寒いし、かわいそうだ。

　それに、早く彼女を人目から遠ざけて独り占めしたい。

「悪かったよ。だからさ――美咲、早く中に入ろう」

　純一は恋人の名前をしっかりと呼んで、家の中へと招き
入れた。
#NEXT

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「あ、あれ？　美咲……さん？」

　玄関を上がった美咲はてっきりリビングか純一の部屋に
向かうものだと思っていたが、彼女は廊下の奥へと歩を進
めている。
#NEXT

　その迷いのない足取りは、純一が思わず“さん付け”し
てしまうほどだ。

　やがて洗面所――正確にはその横にある洗濯カゴまでやっ
てくると、美咲はくるりと純一を振り返る。
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「朝倉さん……、またこんなに溜めて」

　美咲は人差し指を立てながら純一に詰め寄る。

「洗濯物は小まめに洗ってくださいって言いましたよね？」

「あ、はい、ごめんなさい」
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　美咲のちょっぴり厳しい物言いに、純一は反射的に謝る。

「で、でもさ美咲。今日はほら、遊びに来たゲストなわけ
　だし……」

「いいえ、そうはいきません！　今日は徹底的に朝倉さん
　のお世話をさせてもらいます」
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　キッパリと言う美咲は結構張り切っている様子だ。

「りょ、了解……」

　そのコスチュームに違わぬ使命に燃える猫耳メイドさん
に純一は早々に降伏した。
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　あっという間に洗濯物を片付けた美咲は、続いてリビン
グへとやってくる。

「なあ、俺も手伝おうか？」

「いいえ、お気持ちだけで。朝倉さんは座っていて下さい」
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　こんな具合に、純一が手伝おうとするとやんわりと断ら
れてしまう。

　これもメイド魂だろうか？

「あのさ、ここは一応掃除したんだけど……」

　美咲が遊びに来るからと、純一は結構頑張って掃除をし
たつもりだ。
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「確かに……床はキレイですね」

　キレイな床を見る美咲がちょっと残念そうなのは気のせ
いだろうか？

「あっ！　でも、窓が水垢だらけじゃないですか」
#NEXT

　目敏く窓ガラスの汚れを発見した美咲が嬉しそうなのは
もはや気のせいではない。

「おまえは小姑かよ！」

　スプレーと雑巾を駆使してリズミカルに窓を拭きあげて
いく美咲に思わず純一はツッコミを入れてしまうのだった。
#NEXT

　最後にキッチンへとやってきた美咲はぐるっとシンクや
コンロの状態を確認している。

「キッチンは……片付いているみたいですね」

「ああ、まあな」
#NEXT

　当然だ。

　なにせ使っていないのだから。

　しかし、そんな純一の食生活はすぐに美咲に知れること
となる。
#NEXT

「はぁ……朝倉さん、またレトルトばかり食べてるんです
　か？」

　美咲はカップ麺やレトルトパウチの残骸の入ったゴミ袋
を見やりながら、ため息を吐く。
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「いやあ、やっぱりかったるいというか、魂が求めるとい
　うか……」

「もう……しょうがないですね。前に買ったジャガイモと
　かは無事みたいですから、あとでカレーを作っておきま
　すね」
#NEXT

「おお、マジか。嗚呼、神様仏様美咲様」

「褒めたって、出てくるのはカレーだけですよ？」

　両手で拝み倒している純一に苦笑いを浮かべて、美咲は
滑らかな動作でキッチンを整えていく。

　慣れ親しんだ動作はカラダが覚えているとはよく言うが、
彼女はきっとココロが覚えているのだろう。
#NEXT

「でもさ、ホントに良かったのかよ？」

「え？　なにがですか？」

　冷蔵庫の中身を覗き込み、買い足すもののメモをとって
いた美咲がきょとんとした顔で振り返る。
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「俺の家の家事に付きあわせちゃってさ。だって今日はデー
　トだったんだぜ？」

「うーん、そうですね……」

　美咲は少し考えるように顎に手を当てる。
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「やっぱり、私は嬉しいんですよ。メイドとしてじゃなく
　て、“恋人”として朝倉さんのお世話を焼けるのが」

「そっか、“恋人として”か」

　出会った時と外見はそっくりだけど、中身はだいぶ変わっ
てきているみたいだ。
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「はい、だから気にしないで下さい。それに、ぐーたらな
　朝倉さんはお世話のし甲斐がありますから」

　美咲は小さく力こぶを作ってみせる。
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「おいおい、ぐーたらは余計だぞ？」

「ふふっ、ではでは、そういうことにしておきますね、ご
　主人様♪」

「ったくもう……」

　くすくすと笑う美咲に、純一はポリポリと頭を掻く。
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　美咲は頼子さんの時と違って、純一に小言を言ったり、
軽口を交わすことが多くなったと思う。

　きっとそれは、ふたりの距離が近くなったからだろう。

　純一はどこかで読んだ、うだつのあがらないダメ主人を
小言混じりだけれども甲斐甲斐しく世話するメイドさんを
思い出す。
#NEXT

「まあ、こういうのもたまには悪くないな」

　そんな風に純一は思うのだった。
#NEXT

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「さて、一息つこうかねっと」

　特に何もしていないが、家事は一段落したので、純一は
コーヒーブレイクを摂ることにした。
#NEXT

　純一は、少し前に買ったコーヒーメーカーと電動ミルを
棚から取り出す。

　インスタントが苦手な美咲のために、今日はちょっと一
手間だ。

　とはいえ、豆を挽くのはかったるいので電動ミルなのだ
が。
#NEXT

「よし、豆挽き完了っと」

　手早く準備を終えた純一はリビングで洗濯物を畳んでい
る美咲に声をかける。

「なあ美咲、コーヒーの濃さってどれくらいがいい？」
#NEXT

　お茶請けは饅頭にしようか、などと考えながら純一は美
咲に問いかけるが、彼女からの答えは返ってこない。

「おーい美咲さんや、コーヒーなんだけど……って、ん？」
#NEXT

　純一がもう一度尋ねながらリビングまでやってくると、
美咲はソファーの上で眠ってしまっていた。

「ありゃりゃ、気持ちよさそうにしちゃって。さすがに疲
　れたのか」

　綺麗に畳まれた洗濯物の横で、美咲はすうすうと安らか
な寝息を立てている。
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「猫耳は外したんだな」

　寝るには邪魔だったのか、美咲の手にはカチューシャが
握られている。

「それにしても、無防備すぎだぞ？　美咲」
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　スカートの裾から覗いている足先や、枝垂れて額にかか
る前髪はなんとも悩ましい感じだ。

「……ちょっとぐらいならいいかな？」

　純一はそっと美咲の髪を撫でたり、頬を突っついたりす
る。
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　サラサラとした感触とプニプニとした弾力が心地いい。

「ん……んんっ……」

　くすぐったそうに美咲が顔を背けると、髪がバラけて白
いうなじがあらわになる。
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　その艶かしさに沸き立つ欲求もあるのだが、これ以上は
彼女を起こしてしまいそうだ。

　それに美咲の幸せそうな寝顔を見ていると、なんだか純
一も眠くなってくる。
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「ふあーぁ……、俺も一眠りするかな」

　美咲に毛布をかけてやると、純一もソファーに身を落ち
着ける。

　春には少し早い日差しの暖かさに、純一は身体を委ねる
ことにした。
#NEXT

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「朝倉さん……起きて下さい……」

　名前を呼ぶ声がする。
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「もう……起きてくれないと、その……しちゃいますよ？」

　続いて唇に感じる柔らかな感触。

「ん……？」

　そこでようやく、純一は目を開く。
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「やっと起きてくれた」

「ああ……おはよう」

　いつの間に膝枕をされていたようだ。
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　寝ぼけ眼の純一の目の前には微笑みを浮かべる恋人の顔
がある。

　香水のような、あるいは花のような香りに、メイド服に
猫耳カチューシャ。

　そして心地好い太ももの感触。
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　純一は懐かしい感覚にとらわれる。

「ねえ……朝倉さん、どちらの名前で呼んでくれますか？」

　そんな純一を見透かすように、そっと声が降りかかる。
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「……太郎」

「もうっ……真面目に答えて下さい！」

　形の良い唇をとがらせながら、猫耳メイドは純一の頭を
揺らす。
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「悪い悪い、冗談だって」

「それで、どちらなんですか？」

　自分を見つめる真剣な眼差しに応えるように、純一もじっ
と視線を重ねる。
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「それはもちろん――」

　最愛の人の名前を、純一は告げる。

　純一の答えを聞いて一瞬だけ目を見開くと、それを噛み
しめるように、彼女はゆっくりと目を瞑る。
#NEXT

「やっぱり、大好きな人に名前を呼んでもらうのは嬉しい
　ですね、朝倉さん」

　そう言って、純一の大好きな人は嬉しそうに笑ったのだっ
た。
#NEXT

　――Ｆｉｎ
#NEXT

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